企画委員会による2022年度学会大会・企画分科会の企画内容公開のお知らせ

日本比較政治学会第25回研究大会(於九州大学)
(2022年6月25~26日)

分科会「議会・議員はジェンダー・イシューをどう扱っているのか」

企画委員 大澤貴美子(岡山大学)

ジェンダーと政治の領域における議員や議会に関する研究では、特にフェミニズムに親和的な左派政党や女性議員の動向に焦点があてられることが多かった。近年では、保守政党や保守的な女性議員、また男性議員も、ジェンダー政治に関わるアクターであるとして分析の対象となってきている。同時に、どのようなジェンダー・イシューが議会における政治・政策論争の俎上に上るのか、それらのイシューについてどのような主張がなされるのかについては、国やアクターによって多様性が存在することも明らかになっている。
ジェンダーの視点で議員行動や議会動向を分析する研究が多様なアクターとイシューを分析対象とし始めているというこのような現状を背景として、本分科会では議員個人および集合体としての議会が、ジェンダー・イシューに対してどのような姿勢をとっているのかを描写し分析することを目的とする。議員や議会はどのようなジェンダー・イシューにどのように関わっているのか。どのような要因が議員や議会の態度や言説に影響を及ぼしていると考えられるのか。このような問いを日本と韓国のケースを用いて比較検討することで、議会や議員のジェンダーをめぐる政治への参加(あるいは不参加)の有り様とその理由が明らかになるであろう。

司会 大澤貴美子(岡山大学)
報告 崔佳榮(駒澤大学)「ジェンダー・イシューとしての保育問題(仮)」
   堀江孝司(東京都立大学)「ジェンダー・イシューをめぐる議員の立場表明と立場回避:保守系女性議員の言説から(仮)」
   大倉沙江(筑波大学)「ジェンダー・イシューをめぐる有権者と議員の態度(仮)」
討論 加藤雅俊(立命館大学)
   大木直子(椙山女学園大学)

分科会「テキスト分析と比較政治学」

企画委員 菊池啓一(アジア経済研究所)

インターネットの発達によるオンライン上での文書データ取得の易化、SNSの台頭、PCの処理能力の向上、分析に供するソフト開発の進展などの影響を受け、テキスト分析は近年の社会科学における重要な分析手法の一つとなっている。比較政治学もその潮流の例外ではなく、政治制度を対象としたものから行動論に至るまで、テキスト分析が多く用いられている。例えば、議会研究では、記名投票データの代わりに議事録に記載されている発言データ等から各議員の選好(理想点)を推定するものが増えている。また、行動論では、感情分析などを行う研究も少なくない。
しかしその一方で、誤解を恐れずに言えば、これまでの本学会研究大会におけるテキスト分析の扱いは(それを用いた報告が皆無であったわけではないものの)限定的であったように思われる。そこで、本分科会は、異なるテキスト分析の手法を用いた3つの報告とディスカッションを通じ、幅広い研究分野に応用可能であるテキスト分析に対する我々の理解を深めることを目的とする。時間が許すようであれば、分析に使用するソフトやパッケージ、分析対象となる言語による前処理の違い等といった実践的な面についても意見交換を行うことができればと考えている。

司会 菊池啓一(アジア経済研究所)
報告 于海春(早稲田大学)「ソーシャルメディアを活用した武漢「封鎖」における中国国民感情変化の分析(仮)」
   渡辺綾(アジア経済研究所)・久保 慶一(早稲田大学)“Negotiated Settlement in Democracies: Legislative Deliberation on the Mindanao Peace Process in the Philippines(仮)”
   福井英次郎(明海大学)「EUの組織間における規範の形成(仮)」
討論 末近浩太(立命館大学)
   西川賢(津田塾大学)

分科会「民主主義と紛争」

企画委員 増原綾子(亜細亜大学)

東南アジアには、いまも分離独立運動がくすぶる地域がある。権威主義体制下で運動は苛烈な弾圧を受け、武装ゲリラによる紛争は長期化した。民主化とともに政府は武装ゲリラと和平を結び、広範な自治を提供することで紛争を平和的に解決することをめざした。しかし、民主主義は必ずしも紛争を解決に導くとは限らず、平和的解決や人権尊重を掲げるはずの政権の下で暴力や人権侵害が深刻化する皮肉な現実がある。同時に、紛争の継続は軍・治安機関の役割を拡大させ、その国の民主主義に影を落としている。
本分科会では、東南アジアにおいて民主主義の下でも分離独立運動が解決していない地域を取り上げ、民主主義と紛争について分析したい。フィリピン南部のミンダナオ、インドネシア東部のパプア、タイ深南部の紛争を取り上げる。ミンダナオ紛争には民主的な政権の下で長期にわたって和平と自治地域発足の努力が続けられながら挫折してきた歴史があり、現在ようやく自治地域発足のための移行プロセスが進められている。パプアでは50年以上にわたり分離独立運動が継続しており、インドネシア民主化後に特別自治が付与されたものの、その後も治安部隊による人権侵害が絶えない。タイ深南部では民主的な政権の下でむしろ紛争が激化したという経緯がある。この3つの紛争事例から、民主主義が当該地域の紛争に与える影響、また紛争がその国の民主主義に及ぼす影響について考察する。

司会 増原綾子(亜細亜大学)
報告 谷口美代子(JICA)「ミンダナオ紛争・和平にみるフィリピン「民主主義」の一考察(仮)」
   阿部和美(秋田大学)「パプア紛争の終着点―民主化、自治を経たパプア社会の変化―(仮)」
   西直美(同志社大学)「1980年代以降の“民主主義”とタイ深南部紛争の変容(仮)」
討論 松野明久(大阪大学)
   中溝和弥(京都大学)

分科会「分離主義問題の政治的ダイナミクス」

企画委員 富樫耕介(同志社大学)

ある政治集団が既存の領域的枠組みからの分離・独立を主張する現象は、現在、世界各地で広く観察することができる。このような分離主義問題の中には、対立が激しい武力紛争へと至るものと、法的・政治的枠組み内部に留まるものがある。また紛争が長期に渡って継続し分離主義地域の要求が満たされないものと、紛争後、分離主義地域が中央政府の統制を離れ事実上の独立を達成するもの、あるいは当事者の間で法的・政治的な合意に達するものがある。このような分離主義問題の多様性は、いかなる政治的ダイナミクスを当該地域(分離主義を主張する地域や国)にもたらすのであろうか。
これまで、往々にして分離主義問題は、各々の地域研究のフィールドの枠内に留まることが多く、地域を超えた学術的対話が日本では十分になされてこなかった。本企画では分離主義問題を抱えている複数の地域から企画を構成し、事例も先進国と途上国、武力紛争へと至った事例と法的・政治的対立に留まる事例などに目配せし、地域を超えて分離主義問題の政治的ダイナミクスを考察することを目指す。

司会 富樫耕介(同志社大学)
報告 鈴木啓之(東京大学)「パレスチナにおける独立運動の蹉跌と国家建設(仮)」
   立花優(北海道大学)「パトロン国家における非承認国家のプライオリティ変化:2018年革命前後のアルメニア・カラバフ関係(仮)」
   荒木隆人(広島大学)「マルチナショナル連邦制とケベック独立問題の現在(仮)」
討論 白川俊介(関西学院大学)
   永田智成(南山大学)

分科会「議会内外の議員行動と政党政治の比較研究:多様な政治制度の下で」

企画委員 松本俊太(名城大学)

現代の民主主義国家は、国民が代表を選び、代表同士で意思決定を行う代議制民主主義によって成り立っている。「代議制」という以上、国民の代表たる議員、および、議員の集団である政党は、どの国においても欠かせない要素である。ところが、同じ議員や政党とはいえ、その行動は、執政制度・議会制度・選挙制度といった各種の制度によって大きく異なる。では、異なる制度の下での議員や政党の行動、そしてそれが生み出す議会内外の政治の、共通点と相違点は何か。
本分科会は、3本の報告を通じて、この問いを考える。各報告が対象とするのは、いずれも先進民主主義国である。具体的には、大統領制の国を代表してアメリカ・議院内閣制の国である西欧諸国・そして、議院内閣制の国でありながら、アメリカに近い議会制度や西欧とは異なる政党組織といった特徴をもつ日本である。それぞれの報告によって、それぞれの国の執政制度を中心とした政治制度とその制約下での議員や政党の行動が明らかになるであろう。同時に、本分科会は、これら3本の報告の議論を通じて、様々な国、および、執政・議会・選挙・議員行動・政党といった様々な分野を専門とする研究者間の情報共有と対話を行うことを目指す。

司会 松本俊太(名城大学)
報告 久保浩樹(明治学院大学)「アメリカの対外援助をめぐる点呼投票分析(仮)」
   新川匠郎(神戸大学)「欧州における政党を介した政治制度配置の収れんと分岐:質的比較分析(QCA)を通じて(仮)」
   濱本真輔(大阪大学)・奥健太郎(東海大学)「事前審査制による立法過程の変容ー戦後日本における政調会の活動量の分析を通じて(仮)」
討論 岡山裕(慶應義塾大学)
   日野愛郎(早稲田大学)