企画委員会による2021年度学会大会・企画分科会の企画内容公開のお知らせ

日本比較政治学会第24回研究大会(於慶應義塾大学)
(2021年6月26日~27日または6月19日〜20日))

 

分科会「アカウンタビリティ:有権者-政治家の二者関係を超えて」

企画委員 上條諒貴(北九州市立大学)

伝統的なアカウンタビリティ研究は、「政治エリートの行動の帰結に条件づけた、市民による政治エリートへの制裁/選抜可能性」というアカウンタビリティの捉え方を基礎に、有権者と政治家の間の、いわゆる選挙アカウンタビリティの検討を中心に発展してきた。しかし、アカウンタビリティが上記のような二者関係を意味するものだとしても、例えば有権者と政治家の間のアカウンタビリティをよく機能させるためにはメディアなどの存在が欠かせない。さらに、アカウンタビリティの主体としての市民は「有権者」に限らない。権威主義体制における市民であっても、抗議行動などを通じて政治エリートの利得構造を変化させる余地を持つであろう。つまり、本来、アカウンタビリティとは(仮に上記のような意味内容に限定して捉えたとしても)、多様なアクター間の関係や異なる体制における政治の在り方を包摂しうるより豊かな分析概念であると考えられる。実際に、より多様なアクター、あるいは権威主義体制に分析範囲を拡大することが近年の一つの研究潮流となっている。
現在のところ、こうした新たな研究潮流が、伝統的なテーマと並ぶほどの注目を浴びているとまでは言えない。しかし、各国や各地域のさまざまな制度配置や社会の在り方の政治的帰結を理解することが比較政治学の目的であるとするならば、これまで着目されてこなかったアクターがアカウンタビリティに果たす役割や、権威主義体制におけるアカウンタビリティの在り方を検討することは、民主主義体制における有権者-政治家関係の分析をさらに精緻化することとは異なった価値ある知見をもたらすであろう。
このような問題意識から、本分科会では、①有権者/政治家双方から自律的な立憲君主、②西ヨーロッパ諸国におけるメディアシステム、③政治体制に大きな分散があるサブサハラにおける市民の選挙不正認識の三つを題材とし、幅広い地域を対象に多様な方法論で、有権者-政治家の二者関係を超えたアカウンタビリティの比較政治学的検討を行う。

司会:上條諒貴(北九州市立大学)
報告:稲田奏(早稲田大学)“Is political engagement by constitutional monarchs compatible with democracy?(仮)”
   新川匠郎(神戸大学)「西ヨーロッパ諸国でのメディアシステムの発展とアカウンタビリティの問題:政治制度の配置構成的比較を通じて(仮)」
   門屋寿(早稲田大学大学院)「政党帰属意識と選挙不正認識(仮)」
討論:伊賀司(名古屋大学)
   上條諒貴(北九州市立大学)

 

分科会「権威主義体制における民主的制度と軍」

企画委員 加茂具樹(慶應義塾大学)

権威主義体制の民主的制度が体制の持続に貢献するという議論がある。また軍は権威主義体制の権力構造において重要なアクターとして、その誕生と持続に貢献しているといえる。これを抽象化すれば、民主的制度は体制の持続に挑戦する(可能性を持つ)アクターを包摂する役割を発揮し、軍は体制に挑戦する(可能性を持つ)アクターを排除したり体制を支持するよう強制する役割を発揮している。
本パネルは、権威主義体制的な国々において、その持続に貢献しているといわれる議会や選挙といった民主的制度と軍の関係を描くことによって、権威主義体制の持続をめぐる議論を深める場としたい。その際の中心的な論点は、権威主義体制における民主的制度と軍を、それぞれ個別ではなく、関連付けて論じることによって権威主義国家における政軍関係の一側面を描くことにある。また民主的制度にしろ軍にしろ、体制持続への貢献のかたちは時間の経過とともに変化しているはずであり、両者の関係も変化していると思われる。時間の経過による関係の変化に注目し、体制の持続に貢献する機能の多様性を描く。

司会:加茂具樹(慶應義塾大学)
報告:岩坂将充(北海学園大学)
   外山文子(筑波大学)
   湯浅剛(上智大学)
討論:武藤祥(関西学院大学)
   中西嘉宏(京都大学)

 

分科会「新型コロナウイルスと生活保障:福祉国家の新たな危機なのか?」

企画委員 千田航(釧路公立大学)

新型コロナウイルス感染症の拡大によって公衆衛生の重要性が浮き彫りになるだけでなく、休業や失業に対する「補償」への取り組みもみられた。近年の福祉国家が古い社会的リスクの「補償」と新しい社会的リスクの「準備」を組み合わせた取り組みをおこなうなかで、新型コロナウイルスによる危機は再び「補償」を利用した対応を必要としているようである。
しかし、日本の特別定額給付金はこれまでの福祉国家ではあまり想定されていない仕組みであり、そうならば福祉国家からの逸脱とも考えられる。その一方で、雇用調整助成金による休業への対応は既存の福祉国家が機能したともいえよう。それでは、新型コロナウイルス感染症は既存の制度外で対応する福祉国家の新たな危機を招いているのであろうか、それとも医療制度など福祉国家のある種の強靭さを再認識する契機となるのだろうか。
本分科会では、こうした新型コロナウイルス感染症と生活保障との関係についてドイツ、スウェーデン、エジプトの事例から検討し、既存の福祉国家への影響を考えたい。その際、アクターの福祉国家への認識や支持調達への態度、財政状況などは新型コロナウイルス感染症への対応に影響したのであろうか。そもそも、新型コロナウイルス感染症は危機といえず、単に福祉国家が経路依存的だっただけなのだろうか。感染症自体への対策よりも生活保障の観点からみていきたい。

司会:千田航(釧路公立大学)
報告:近藤正基(京都大学)
   秋朝礼恵(高崎経済大学)
   河村有介(神戸大学)
討論:三浦まり(上智大学)
   堀江孝司(東京都立大学)

 

分科会「新型コロナウイルス感染症への政府の対応と有権者の反応」

企画委員 粒良麻知子(アジア経済研究所)

世界全域にわたる新型コロナウイルスの急激な感染拡大は、各国政治とその研究に大きな影響を与えている。欧米では、各国政府の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に関するデータベースが急速に構築されている。同時に、COVID-19に関する政治研究が進められており、これまでに、政治体制や国家能力などの政治的要因が政府のCOVID-19対策やその結果に与える影響、政府のCOVID-19対策への有権者の反応などについての分析が行われてきた。例えば、民主主義の国は非民主主義の国と比べて、政府のCOVID-19への初期対応が遅かったという研究成果が出てきており、政治体制と政府の危機対応の関係に新たな研究課題を投げかけている。
このような状況を背景に、本分科会では、政府のCOVID-19への対応と有権者の反応に焦点をあて、政治体制の違いが政府のCOVID-19対策やその結果にどのように影響しているのか、日本政府のCOVID-19対策に関する議論に有権者はどのように反応しているのかといった問いを、多国間比較やサーベイ実験を用いて検証した最新の研究を報告する。これらの報告を通じて、世界が直面する喫緊の課題に対して比較政治学が貢献できることを探りたい。

司会:粒良麻知子(アジア経済研究所)
報告:安中進(早稲田大学)「政治体制とCOVID-19死者数」(仮)
   井関竜也(京都大学・院)、池田峻(京都大学・院)、石間英雄(京都大学)、重村壮平(神戸大学)「Policy debates and public response under Covid-19」(仮)
   柳至(立命館大学)、岡田勇(名古屋大学)、久保慶明(琉球大学)、菊池啓一(アジア経済研究所)「コロナ禍と手続き的公正」(仮)
討論:東島雅昌(東北大学)
   遠藤晶久(早稲田大学)

 

分科会「中央政府の地方介入と政党:連邦制国家の事例を中心に」

企画委員 平松彩子(南山大学)

中央と地方の政府の権限を別個に定めている連邦制の下で、中央が地方に対して、政治的あるいは行政上の介入をすることがある。本来連邦制の下では、連邦によるそのような介入が起きれば州政府の自治権が脅かされ、統合の難しさが露呈してしまう。また逆に、連邦憲法やその政治的な規範に照らせば州政府の行動が逸脱しているのに、地方に対して中央が介入をせずにとどまる場合もある。いずれも特定の政治制度、とくに政党を媒介とした中央と地方の関係が、このような事態を引き起こしていると考えられる。連邦制の下での中央と地方の関係に見られるこのような緊張、対立あるいは矛盾について、政治制度の面から考察することは、体制の変動や国家の統合の問題を考える上で重要である。
本分科会企画では、中央政府の地方介入が起きる(あるいは起きない)理由について考察し、介入が政党の制度や組織にもたらす変動、ひいては国家統合に向けた取り組みについて比較を行う。連邦制の個別事例として、近年中央と地方の関係に変動が起きているロシア、民主化過程において中央と地方の対立が果たした役割が顕著であるメキシコを、また地方分権を訴える地域の勢力が伸展し連邦制に準じる制度が導入されてきている例としてスペインとイタリアの比較研究を、それぞれ取り上げる。連邦制が運用される実態について、あるいは連邦制を希求する地域勢力と中央との関係についての検討を通じて、各事例の共通点と特異な点が明らかになるであろう。

司会:平松彩子(南山大学)
報告:豊田紳(アジア経済研究所)「連邦政府による州政治への介入と民主化:覇権政党時代から体制変動期のメキシコ(仮)」
   永田智成(南山大学)池田和希(東京外国語大学・院)「スペインとイタリアにおける州政府への自治権拡大をめぐる中央政府の介入(仮)」
   溝口修平(法政大学)「支配政党の動員力衰退期における中央・地方関係の変化:ロシアの事例から(仮)」
討論:菊池啓一(アジア経済研究所)
   平松彩子(南山大学)