企画委員会による2023年度学会大会・企画分科会の企画内容公開のお知らせ

日本比較政治学会第26回研究大会(於山梨大学)
(2023年6月17~18日)

分科会「言論統制と政治体制の安定性」

企画委員 稲田奏(東京都立大学)

言論の自由は民主主義にとって重要な要件のひとつであるが、その実現は容易ではない。権威主義体制や新興民主主義諸国の中には、政府による言論統制によって情報へのアクセスや政治的選好の表出、他者との自由なコミュニケーションが厳しく制限されている国も少なくない。言論統制の手法は多岐にわたり、国や政治体制、時代に応じて大きく異なる。情報通信技術が進展した現代においてはインターネット上で検閲が実施され、検閲の技術はますます精緻化されていることが明らかとなっている。このような政府による言論統制政策は、市民による自己検閲を促し、市民間の協調行動を困難にすることが目的であると考えられている。しかし一方で、政府による言論統制は市民の反発を招き、大規模な抗議活動や政府の正当性の低下を引き起こす可能性があることも指摘されている。政府による言論統制は政治体制の安定性にどのような影響を与えているのだろうか。
 本分科会は、3本の報告を通じて、この問いについて考える。各報告は異なる国や時代、政治体制における言論統制に焦点を当てている。具体的には、18世紀のフランスにおける書籍の検閲、中国におけるメディアを通じた政治喧伝、そしてロシアにおける新聞を通じた情報のコントロールを取り上げる。異なる国や時代、言論統制の手法を対象とする3本の報告とそれに対する議論を通じて、言論統制という問題を広く理解し、比較分析するための枠組を提示することを目指す。

司会 稲田奏(東京都立大学)
報告 工藤文(日本学術振興会)「ソーシャル・メディアを通じた中国共産党のイメージ形成ー人民
   日報Weiboを対象にー」
   佐々木優(金沢大学)“Weak States and Hard Censorship”
   東島雅昌(東北大学)・金子智樹(東北大学)・久保慶一(早稲田大学)・鳥飼将雅(大阪
   大学)「ウクライナ危機前後のロシアメディアの論調の変化」
討論 田中(坂部)有佳子(青山学院大学)
   稲田奏(東京都立大学)

分科会「複合危機下の経済政策」

企画委員 上川龍之進(大阪大学)

米中対立、地球温暖化による気候変動、新型コロナウイルス感染症の蔓延、ロシアのウクライナ侵攻といった「複合危機」により、スタグフレーションの再来が懸念されるなど、世界経済の見通しは、きわめて不透明な状態にある。今次の複合危機は、先進各国・地域に、どのような影響を与えているのか。この複合危機に対して、先進各国・地域はどのような政策対応をとっているのか。先進各国・地域の経済政策は、いかに決定されたのか。その背景にある政治力学は、いかなるものなのか。本分科会では、こうした問いに答えるために、複合危機下にあるアメリカ、EU、日本における経済政策の決定過程を分析する。
 危機は多くの人々を苦しめ、その人生を狂わせる。だが一方で、学問は、危機を契機に大きな進歩を遂げることがある。そもそも比較政治経済学は、先進国が経済危機に瀕した1970年代に、各国の経済パフォーマンスの違いを政治制度の差異から説明しようとする試みから生まれた研究分野である。従来にない複合危機を乗り越えるためにも、比較政治経済学は、さらなる発展を求められている。
 とはいえ個別事例を十分に理解しないまま、性急な一般化を行うことには慎重でなければならない。まずは事実確認が重要との観点から、本分科会では、各国・地域を専門とする研究者による現状分析を通じて、個別事例についての理解を深めることに主眼を置く。そのうえで、今後の比較分析の可能性について検討することにしたい。

司会 上川龍之進(大阪大学)
報告 神江沙蘭(関西大学)「国際レジームの変容とEUの統合戦略: 経済・金融ガバナンスへの影響
   (仮題)」
   杉之原真子(フェリス女学院大学)「アメリカの財政政策と米中対立」
   田中雅子(東京大学)「複合危機と日本の財政金融政策」
討論 北山俊哉(関西学院大学)
   竹中治堅(政策研究大学院大学)

分科会「住民参加と地域自治:ニューミュニシパリズムの比較政治」

企画委員 濱田江里子(立教大学)

2010年代以降のヨーロッパ諸国においては、伝統的なデモクラシーの意義に挑戦する動きと、その刷新を目指す動きが混在しながら展開してきた。エリート・官僚主義的でトップダウンな意思決定を行うEU議会に対抗すべく、右派・左派ポピュリスト勢力の台頭と伸長が観察され、比較政治学からのアプローチも活発になされてきた。
 他方、都市自治体や草の根からデモクラシーの再生を目指す動きとしては、ニューミュニシパリズムと呼ばれる市政活動が出現している。基礎自治体レベルでの権限を拡張し、地域民主主義の実践を通して地方の民主的な自治を復活させようという動きである。生活問題の解決に向けた住民の地域参加を重視し、集団的なアイデンティティの形成と相互扶助の原理を掲げ、コミュニティや自治体同士の連合に期待を寄せながら市政改革を進める点に特徴がある。こうした動きは集権的な国民国家とグローバル資本主義へのオルタナティブとして、ジェンダー平等や環境正義といった価値観を積極的に取り入れながら各地域で萌芽がみられる。
 ニューミュニシパリズムは、社会的企業や社会的連帯経済論からの着目が進む一方、比較政治学ではあまり扱われてこなかった。そのため従来型の政党政治の枠を超えて、国民国家に対する地方の民主的な自治の再生やコミュニティ形成が、どのような主体により、いかなるプロセスを経て展開しているのかは十分に明らかになっていない。
 そこで本分科会では、スペイン、フランス、スコットランドの事例研究を通じ、各地域における住民による自治の再生がどのような背景のもとに、いかなる動態が生じているのかを分析する。地域や都市自治体をベースとした自治の再生の過程を考察し、各事例の共通点と相違点を検証し、地域自治を比較分析するための新しい枠組みの可能性を検討したい。

司会 濵田江里子(立教大学)
報告 中島晶子(東洋大学)「スペインにみるニューミュニシパリズム―挑戦と課題(仮)」
   中田晋自(愛知県立大学)「フランスの都市自治体における市政改革の新動向―2020年コミュ
   ーン議会選挙以降のアヌシー市における市民参加改革の事例―」
   渕元初姫(法政大学)「コミュニティにおける社会的包摂―スコットランドの事例から
   (仮)」
討論 水島治郎(千葉大学)
   武田宏子(名古屋大学)

分科会「比較地域研究(Comparative Area Studies)の手法と実践」

企画委員 舛方周一郎(東京外国語大学)

地域研究には、学際的な観点から国外情勢を深く理解するために、特定地域への高い専門性が求められてきた。しかし近年の地域研究においては、地域/分野で獲得する固有の知と研究者の専門への特化が進む中で、それぞれの地域/分野では、固有の分野への埋没化・タコつぼ化などが発生している。さらに社会科学の分野では定性分析と定量分析の間の建設的な対話(二つの文化の物語「A Tale of Two Cultures」)により、実証性を高めた優れた方法論が数多く蓄積されてきたが、そうした潮流に比べると地域研究は方法論の体系化が行われずに「流行遅れ」の学問とも見なされがちであった。
 こうした現状を考えてみると、より広い地域間の文脈・空間を分析の射程にいれて、各種条件の複雑さを考察する比較地域研究(Comparative Area Study)の方法論に光が当てられている。比較地域研究とはいわば社会科学と地域研究の方法論争の先にある、地域研究を再評価する試みでもある。本企画では、地域研究と比較政治との接点や課題を提起する。さらに報告者が実践する研究課題も紹介しながら、従来の「地域研究」の問題点をいかに乗り越えられるのか。比較地域研究の手法と実践の可能性を検討する。

司会 舛方周一郎(東京外国語大学)
報告 松尾昌樹(宇都宮大学)「地域の固有性はどこにあるのか–石油の呪い、あるいはレンティア国
   家論と中東地域研究」
   佐藤章(アジア経済研究所)「地域研究の複数性と汎用性」(仮)
   宮地隆廣(東京大学)「ポリティカル・サイエンスと人類学のはざまで 比較地域研究による
   ラテンアメリカの分析に関する批判的考察」
討論 仙石学(北海道大学)
   粕谷祐子(慶応義塾大学)

分科会「権威主義体制の個人化と世論」

企画委員 溝口修平(法政大学)

権威主義体制の中で独裁者個人に権力が集中し、個人化が進む事例が増加している。そうした個人化の進行は、汚職や国家間紛争に結びつきやすいとされるため、権威主義国家内部だけではなく、国際的にも大きな問題である。プーチンへの権力集中が進んだロシアがウクライナに侵攻したことは、その最たる例であると言える。
 個人化とは、権威主義体制のリーダー個人に権力が集中し、相対的にエリートが持つ権力が低下することを意味する。このようにパワーバランスがリーダーに優位になることは体制の強化となる側面があるが、その一方でこのようなリーダーは大衆をいかに統制するかという問題に直面する。実際、冷戦終結後にはクーデタが減少した代わりに、大衆の抗議運動によって体制が崩壊する事例が増加している。しかし、これまでのところ、権威主義体制において世論の統制や大衆の支持獲得のためにどのような方法がとられているか、そして、大衆はそのような支配をいかに受容しているかという点について研究の蓄積は十分でない。そこで、本分科会では、リーダーへの権力集中が進んでいる3つの事例を取り上げて、個人化した権威主義体制におけるリーダーと大衆との関係を検討する。

司会 溝口修平(法政大学)
報告 岩坂将充(北海学園大学)「トルコについて」(仮)
   宇山智彦(北海道大学)「旧ソ連諸国について」(仮)
   阿古智子(東京大学)「中国について」(仮)
討論 吉田徹(同志社大学)
   溝口修平(法政大学)