企画委員会による2024年度学会大会・企画分科会の企画内容公開のお知らせ

日本比較政治学会第27回研究大会(於 立命館大学 大阪いばらきキャンパス)
(2024年6月22~23日)

分科会「民主主義の後退と政軍関係」

企画委員 山根健至(福岡女子大学)

第2次世界大戦後、世界では非民主主義的な政治体制が数多く生まれ、クーデターによる文民統制の崩壊、軍の政治介入やプレゼンス・影響力の増大などが政軍関係の潮流となった。その後、1970年代から90年代にかけて、非民主主義体制の崩壊と民主化が各地で発生し、軍の政治からの撤退、プレゼンスや影響力の縮小が政軍関係の潮流となった。そして近年、民主主義の後退や権威主義化が国際的な潮流として指摘されるようになっているが、民主化の時代に軍の優位性が減少傾向にあった政軍関係は、昨今の民主主義の後退や権威主義化が観察されるなかでどのような様相を呈しているのだろうか。
世界を見渡してみると、クーデターによる軍支配の復活といった耳目を集める例もあれば、あからさまな支配ではないにせよ軍のプレゼンスの拡大や政治的影響力の顕在化が指摘される例もある。また、民主主義の後退を経験しながらも、軍の影響力が増大する様子がなさそうな例もある。近年は、民主主義体制と権威主義体制の境界が曖昧化しているとも言われるが、政軍関係のあり方にもそれが反映されていることが想定される。
本分科会では、民主主義の後退が指摘されるが、軍があからさまに政治権力を掌握しているわけではない国々を取り上げ、政軍関係の現状と、その状態が昨今の民主主義の後退とどのような関係があるのかを検討する。そして、民主主義の後退の時代の政軍関係に共通する特徴やパターンが存在するのか否か、また、過去の権威主義の時代や民主化の時代との共通点や相違点はどのようなものか、などの検討に道を拓きたい。

司会 山根健至(福岡女子大学)
報告 本名純(立命館大学)「インドネシアの事例」
山田裕史(新潟国際情報大学)「カンボジアの事例」
舛方周一郎(東京外国語大学)「ブラジルの事例」
討論 大澤傑(愛知学院大学)
山根健至(福岡女子大学)

分科会「権力世襲化の諸相」

企画委員 石黒大岳(アジア経済研究所)

政治権力の世襲は、独裁的な権威主義体制はもとより、新興民主主義国を含む民主主義体制においても観察される事象である。権威主義体制における権力の世襲は、それが体制の権力継承において長期継続の鍵を握るものとして注目されると同時に、その阻止や世襲化された体制の打倒が、民主化の端緒として捉えられてきた。また、新興民主主義国を含む民主主義体制における権力の世襲化の進展や二世政治家の台頭は、権力の寡頭化による競争性と多元性の喪失や、既得権益の固定化による社会的な流動性の低下といった、代表の民主主義的正当性が孕む問題と関連づけられて、近年の比較政治学における主要なトピックである「民主主義の後退」の一側面を表すものとして語られている。他方で、政治的に有力な家系の存在が民主主義の安定につながっていると評価しうる側面も認められる。先行研究は、選挙―それが不公正で恣意的に操作されたものか、公正で競争的であるかにかかわらず―において世襲候補が競争上の優位性を有すること、選挙における高い得票率によって世襲が正当化されることを明らかにしているが、それらを成立させるための手続きや条件、世襲候補の高い支持調達への影響や効果は解明の途上にある。
そこで、本分科会では、政治権力の世襲化の進展および二世政治家の台頭に関する近年の事例を踏まえた地域横断的な多国間事例の比較を行う。1993年に国連管理下で民主的な選挙が行われたものの、その後の民主主義の後退が著しいカンボジア、1985年の民政移管後の民主的な選挙を通じて世襲政治家が影響力を増すウルグアイ、1994年の政治改革を経て、二世政治家の問題が注目される日本の事例についての報告と、ボンボン・マルコス政権の成立で改めて世襲政治家が注目されるフィリピン、父子継承の継続への反発がクーデターの一因となったガボンなど、東南アジアやアフリカ諸国の事例を踏まえた討論による検討から明らかにされる各事例の特性をもとに、既存の政治体制の区分を超えた議論のための共通の視座と地域的な差異が生じる条件を探るための手掛かりを見出したい。

司会 石黒大岳(アジア経済研究所)
報告 新谷春乃(アジア経済研究所)「カンボジアの事例」(仮)
内田みどり(和歌山大学)「ウルグアイの事例」(仮)
西村翼(立命館大学)「日本の事例」(仮)
討論 粕谷祐子(慶應義塾大学)
佐藤章(アジア経済研究所)

分科会「比較政治学の『古典』を読み直す」

企画委員 武藤祥(関西学院大学)

政治学に古典は存在するし、政治思想にも古典は存在する。しかし、比較政治学に「古典」は存在するのだろうか。比較政治学はその特質上、分析手法などを日々進化させており、過去の著作や理論は、「古典」としてではなく、単なる時代遅れの作品として、忘れ去られているように思われる。
比較政治学の源流をたどると、理論と事例、そして欧米型の政治制度・政治文化などといわゆる「第三世界」のそれとの間に見られる差異に着目し、それらを基に理論やモデルを構築するという作業が展開されていたことがわかる。
しかし近年、比較政治学の分野においても、計量分析や因果推論分析など、政治科学的手法が主流になり、初期の比較政治学が持っていた緊張感と知的興奮は後景に退いた感がある。その中で、政治学と比較政治学との差異も曖昧になってきている。
1960-70年代の「黄金期」を彩った著作や理論の多くは、今では比較政治学のテキストに登場することも少なくなり、このまま忘れ去られてしまうのであろうか。
本分科会では、比較政治学の古典的業績(レイプハルト、ハンチントン、リンスのそれ)を、単なる懐古的視点からではなく、今日的観点から読み直すことで、その意義や含意を再検討し、合わせて比較政治学の今後の発展可能性を探る。

司会 武藤祥(関西学院大学)
報告 作内由子(獨協大学)「もしレイプハルトがいまThe Politics of Accommodationを書いたら
(仮)」
永田智成(南山大学)「スペイン政治研究とフアン・リンス(仮)」
中西嘉宏(京都大学)「変容するアジア社会と政治の秩序をめぐって(仮)」
討論 小川有美(立教大学)
武藤祥(関西学院大学)

分科会「比較政治学における「Large-N」研究の現状と課題」

企画委員 飯田健(同志社大学)

因果推論の隆盛により、比較政治学においてオンラインサーベイ実験などのデザインベースの手法を用いた研究が増える一方、かつて計量的研究として最も一般的な手法であった、国などを単位とする観察データの「Large-N」研究は、近年下火になっているように思える。こうした状況をふまえ、本分科会では、「Large-N」の手法を用いた三つの研究報告を通じて、比較政治学におけるその現状と課題について検討したい。

司会 飯田健(同志社大学)
報告 安中進(弘前大学)“Determinants of Public Expenditure in Historical Perspective”(仮)
門屋寿(早稲田大学)「選挙への異議申し立て手段の実態と規定要因」(仮)
東海林拓人(東京大学)「権威主義化と指導者の経験:新興民主主義国における指導者の被抑
圧歴」(仮)
討論 稲田奏(東京都立大学)
浜中新吾(龍谷大学)

分科会「政治的不平等」

企画委員 磯田沙織(神田外語大学)

近年、様々な国で社会の分断が進み、一部では民主主義に対する幻滅感が見られるようになっている。分断が進む中で、多くの市民は政府に対して経済的あるいは社会的不平等への対策を求めている。しかし、政府が市民の多様な意見を集約せず、特定の意見のみに応答する政策をとる場合、経済的あるいは社会的不平等は放置され、寧ろ全てのレベルで不平等は悪化する可能性すらある。そこで本分科会では、日本、フィリピン、ロシアの事例を取り上げ、政治的不平等の現状と課題について検討することにしたい。

司会 磯田沙織(神田外語大学)
報告 山本英弘(筑波大学)「日本の事例」(仮)
日下渉(東京外国語大学)「フィリピンの事例」(仮)
油本真理(法政大学)・鳥飼将雅(大阪大学)「ロシアの事例」(仮)
討論 久保慶明(関西学院大学)
渡辺綾(アジア経済研究所)