2018年度 日本比較政治学会(第21回大会)プログラム

2018年6月23日-24日[於 東北大学・川内南キャンパス]

この時間割は3月15日時点の案であることをご了承下さい。報告タイトル等は、当日までに変更される可能性があります。

第1日 6月23日(土) 13:30~15:30

分科会A|「東欧と西欧におけるポピュリスト(急進)右翼政党」

近年ポピュリズムは最も注目を集めている政治現象・研究分野の一つであるが、東欧の事例が(とりわけ他地域との比較の視座から)本格的に検討されることは相対的に少ない。しかし、現在のハンガリーやポーランドの事例に限らず、1989年の体制転換以来、バルカンも含めて数多くのポピュリスト右翼政党が出現しており、とりわけ2000年代以降は、西欧諸国とも一定程度その(ポピュリズム流行の)文脈を共有していると考えられる。
また、ポピュリスト右翼政党は、最も成功した新興の政党ファミリーと捉えられるが、「ポピュリスト右翼(populist right)」、「ポピュリスト急進右翼(populist radical right)」、「右翼ポピュリスト(right-wing populist)」、「急進右翼(radical right)」、「ナショナル・ポピュリズム(national populism)」、「極右(far right/extreme right)」など様々な名称で呼ばれ・分類されるように、その輪郭/境界線や内実は依然としてあまり明瞭ではない。
したがって本分科会では、第一に、研究蓄積が豊富な西欧の事例と比較することで、西欧と東欧の右翼ポピュリスト政党の政策(争点)・イデオロギー・支持層の異同などについて検討を加える。第二に、ポピュリスト右翼が相対的に強いポーランドと相対的に弱いチェコの事例を比較することで、東欧におけるポピュリスト右翼の強度を左右する条件について考察する。第三に、西欧を中心とするEU諸国の体系的な比較と、東欧の事例についての精密な分析を行うことで、右翼勢力の多様性を明らかにするとともに、「ポピュリスト(急進)右翼」という概念枠組みの有効性や、この概念を用いた比較研究の今後の方向性について検討を試みたい。

[司 会]

藤嶋亮|國學院大學

[報 告]

古賀光生|中央大学
「西欧の右翼ポピュリストにおける反EU争点の意義」

加藤久子|國學院大學
「ポーランドにおける右派勢力とカトリック教会」

中根一貴|大東文化大学
「ポピュリスト(急進)右翼政党とチェコ政治の変容?」

[討 論]

山崎望|駒澤大学

藤嶋亮|國學院大學

分科会B|「『悪魔探し』の政治学」

近年、「敵」を悪魔のように仕立て攻撃することで自らへの支持を動員しようとする政治のあり方(Politics of Demonization)が世界的に問題となっている。そこで「敵」とされる人々は、大規模な移民・難民のように既存の社会経済構造を崩しかねない脅威とみなされる存在だったり、性的マイノリティーなど社会文化的に周縁化された集団であったり、あるいは麻薬の売人や中毒患者のようにスティグマ化して国民を動員しやすいターゲットだったりと、多様である。
多くの場合、政治における「悪魔探し」は人権侵害を引き起こす。フィリピンのドゥテルテ政権下で展開されてきた超法規的処刑はその代表例であろう。こうした深刻な被害をもたらす扇動的な政治が民主的政治体制のもとでもまかり通るのは、「悪魔探し」を歓迎し、あるいはそれに熱狂的に扇動される有権者がいるからである。他方で、社会運動の活性化という形で現れる市民社会の応答にも注目が集まりつつある。たとえば、イスラム教国であるマレーシアにおいても、LGBTによる社会運動の勃興がみられる。
本分科会では、リーダーシップや政党政治の角度から検討されることの多い「悪魔探し」の政治を、上記の東南アジアにおける事例と難民受け入れに対する各国有権者の態度を題材に、悪魔化される客体や扇動される大衆の視点から比較分析し、民主主義の弱点が生む危機感が社会運動の活性化につながっていく可能性についても検討したい。アフリカやアメリカの現状も踏まえて、議論する。

[司 会]

庄司香|学習院大学

[報 告]

日下渉|名古屋大学
「道徳という偽りの処方箋─フィリピンにおける貧者、犯罪、汚職の排除」

伊賀司|京都大学
「東南アジアにおけるホモフォビアと性的マイノリティの運動」

尾野嘉邦|東北大学
堀内勇作|ダートマス大学
「難民受け入れに対する有権者の態度」

[討 論]

杉木明子|慶應義塾大学

自由企画1「『比較政治学』の教育:大学で何をいかに教えるか」

ここ数年、日本語による比較政治学の新しい教科書が刊行され、大学の学部で比較政治学を教える際の新しいスタンダードが提示されている。比較政治学の進展にともない、大学教育で何を比較政治学のエッセンスとして教えるのかが、改めて問い直されているともいえる。比較政治学とはどういう学問で、問題にどうアプローチし何を明らかにしてきたのかを、学生にどう提示するのかが問われているのである。
その一方で、多くの大学では「比較政治学」の授業は一コマ程度で、本学会会員の大多数も比較政治学そのものを教えているわけではないだろう。中でも、各国政治や地域の政治、さらには地域研究に関する講義を担当している会員が多いのではないかと思われる。
そうした状況をうけて、本企画では、「学部学生に対して比較政治学の重要性をいかに示し、何をエッセンスとして、どう教えるか」「各国政治を扱う授業において、比較政治学の考え方をどのように基礎づけて学生に教えるか」という問題を扱いたい。これは大学教育の問題であると同時に、比較政治学という学問をどうとらえるのか、比較政治学の方法をどう伝えるのかという問題でもある。
こうした問題を扱うため、比較政治学関係の教科書を執筆し、それぞれ比較政治、一国政治、地域研究の授業を担当している報告者と、異なる方法やアプローチからの議論が期待される討論者でパネルを構成した。フロアーを含めた議論を通じて、大学で比較政治学を教える意義や何をどのように教えるのかを、学会という場で検討したい。
なお、本企画は日本学術会議(政治学委員会比較政治分科会)との共同企画である。

[司 会]

礒崎典世|学習院大学

[報 告]

久保慶一|早稲田大学
「比較政治学の「考え方」をどう教えるか―因果推論の事例としての比較政治研究」

待鳥聡史|京都大学
「地域に寄り添わないで地域政治を教える―事例としての相対化の追求」

末近浩太|立命館大学
「地域研究は教えられるのか―各国政治・比較政治・国際政治との関係のなかで」

[討 論]

新川敏光|法政大学

加藤淳子|東京大学

小川有美|立教大学

自由企画2|「権威主義体制における時間と政治」

時間の経過が政治過程に与える影響については、歴史制度論というジャンルで研究蓄積が進んでいる。だがその多くは西欧の民主主義体制を対象としたもので、非西欧の権威主義体制を対象とした研究は未だ少ない。政治権力の分散が進み、政権交替がある程度の頻度で起こり、市民社会による政府への影響力もある程度は担保されている民主主義体制に比べ、政治的・市民的自由が限定的な権威主義体制においては、政治に対する時間の「効き方」はどのようなものなのかを探ることが本パネルの目的である。
本パネルは、東アジア、南・東南アジア、中東地域における権威主義体制を歴史的制度論アプローチで分析する3本の論文から構成される。林論文は、中華人民共和国成立以降の中国における政軍関係の展開を、統治における軍の役割とその制度配置の変化に注目し、現代中国政治の幾つかの重大局面を中心に考察する。粕谷・東島論文は、権威主義体制の様々なタイプのうちでは比較的短命とされる軍政が長期化する要因に関して、植民地からの独立期におけるリーダーのタイプがゲリラ型かシビリアン型かの違いに着目し、多国間比較分析とミャンマー・パキスタン事例比較分析とを合わせて検討する。河村論文は、1954年以降2011年まで、ナセル、サーダート、ムバーラクの三代にわたる長期安定政権が維持されたエジプトにおいて、福祉レジームがどのように発展してきたのか、また「アラブの春」以降にどのような変化を遂げているのかを明らかにする。

[司 会]

粕谷祐子|慶應義塾大学

[報 告]

林載桓|青山学院大学
「現代中国の政軍関係の制度発展―権威主義体制、政治秩序、軍」

粕谷祐子|慶應義塾大学
東島雅昌|東北大学
“The Historical Origins of Long-Surviving Military Regimes: the Mode of Decolonization, Legitimacy Advantage, and Path Dependency”(ペーパーのみ英語)

河村有介|日本学術振興会特別研究員(PD)
「エジプトにおけるポピュリズム型福祉レジームの発展と変容」

[討 論]

豊田紳|日本学術振興会特別研究員(PD)

今井真士|文教大学

自由論題A|「体制支持の構造」

[司 会]

浜中新吾|龍谷大学

[報 告]

川中豪|アジア経済研究所
“Status Quo or Plurality?: Dominant Party Rule in Singapore and People’s Preferences”(ペーパーのみ英語)

近藤則夫|アジア経済研究所
「南アジア5カ国における民主主義の認識構造:トラスト、政治的有力感、社会不安、政府業績評価」

大澤傑|防衛大学校総合安全保障研究科
「個人支配体制の政党―懐柔装置としての役割―」

[討 論]

浜中新吾|龍谷大学

中井遼|北九州市立大学

第1日 6月23日(土) 16:00~18:00

分科会C|「比較政治学における混合研究法」

日本の比較政治学界において計量分析が異端であった時代は去り、選挙研究以外でもマクロレベル、マイクロレベルを問わず、統計分析が行われることはもはや珍しくない。同時に、量的アプローチの有効性とともにその限界も適正に判断されており、質的アプローチとの相互補完の必要性は広く共有されている。
このニーズに対応するため、混合研究・調査の草創期においては、量的アプローチに特化した研究者と質的アプローチに特化した研究者が異なる視点から同一対象を分析する共同研究という形態が多くとられたが、近年、技術の進歩と相互学習の深化、そして初めから両方のアプローチの訓練を受けた新しい世代の研究者の登場により、より深く「混合」させる方法が模索されている。
また一口に「混合」といっても、マクロレベルの計量分析とケーススタディの混合、一国研究における計量分析と質的分析の混合、そしてアンケートなどの量的測定とインタビューなどの質的測定の混合があり、それぞれにおいて研究設計時の想定と、実際の測定・分析時における成功と失敗の経験が、公的・私的な情報として蓄積されつつある。
当分科会では、双方のアプローチに習熟し、かつ自ら「混合」を実践してきた研究者に、机上の方法論的空論ではなく、その具体的経験・教訓を共有してもらうことを目的とする。

[司 会]

三上了|愛媛大学

[報 告]

鷲田任邦|東洋大学
「一国事例を対象とする混合研究:マレーシアの事例から」

舟木律子|中央大学
「インタビューデータに基づく調査票開発による探索的混合研究法の実践―ボリビア先住民自治住民投票に関する事例研究から―」

東島雅昌|東北大学
「多国間統計分析と比較事例研究による混合手法」

[討 論]

岡田勇|名古屋大学

浜中新吾|龍谷大学

分科会D|「政治過程におけるジェンダー・ポリティクス」

政治過程におけるジェンダー・ポリティクスは、比較政治学において未開拓の分野にとどまっている。しかし、一見ジェンダー中立的に思われる政治過程及び政策決定過程は決してジェンダーと無関係な領域ではない。フェミニスト政治学は、「普遍的な個人市民」を前提とする政治が「家長の男性」を暗黙の基準としており、政治そのものが「男性」の領域として性別化されていると指摘した。そのような前提は、政治過程に参加するアクターや正統な政策関心から女性やマイノリティーの視点を排除するか、非政治的なものとして周辺化する論理として働く。
近年女性やマイノリティー集団自らの要求により政治過程が脱男性化されつつあるが、それはまた、ジェンダー・イシューが女性のエンパワメントに繋がらない単なる「ジェンダー・ウォッシングgender washing」になりかねない危険性をもたらした。本分科会は、日本、イギリス、韓国を事例に、政党政治におけるジェンダー・ポリティクスを丁寧に分析し、ジェンダーはどのように政治過程に組み入れられ、どのような変化をもたらしているのかを探求する。それによって、政治分析におけるジェンダー視点の有効性もまた確認する。

[司 会]

申琪榮|お茶の水女子大学

[報 告]

武田宏子|名古屋大学
「イギリス労働党の変容とジェンダー」

大澤貴美子|岡山大学
「女性の実質的代表の分析―保守政権下の日本を対象として」

崔佳榮|京都大学
「韓国における保育政策をめぐる政治過程」

[討 論]

辻由希|東海大学

自由論題B|「民主主義への移行と定着」

[司 会]

藤嶋亮|國學院大學

[報 告]

牟禮拓朗|一橋大学・院
「現代チュニジアの民主化に関する研究―権威主義体制期における女性政策と民主化維持のリンケージ―」

ウィン・ウィン・アウン・カイン|早稲田大学・院
「ミャンマーの権威主義体制から民主化への移行:1990年と2010年の総選挙の比較分析」

門屋寿|早稲田大学・院
谷口友季子|早稲田大学・院
「権威主義体制下における選挙と社会運動の発生―選挙の定着の社会運動への効果―」

[討 論]

馬場香織|北海道大学

岩坂将充|同志社大学

自由論題C|「大統領制の比較政治」

[司 会]

庄司香|学習院大学

[報 告]

今井真士|文教大学
「執政制度の設計と権限行使の経路:憲法の明示的規定に基づく執政府・立法府関係のデータセットの構築、1946~2017年」

芦谷圭祐|大阪大学・院
「政令指定都市における女性議員の参入―二元代表制における政党政治のメカニズムに着目して―」

磯田沙織|筑波大学
「ラテンアメリカ諸国における大統領再選規定の比較研究」

[討 論]

菊池啓一|アジア経済研究所

梅川健|首都大学東京

自由論題D|「ポピュリズムの諸相」

[司 会]

ケネス・盛・マッケルウェイン|東京大学

[報 告]

宮内悠輔|立教大学・院
「地域主義政党のポピュリズム戦略―現代ベルギーを事例として―」

稗田健志|大阪市立大学
善教将大|関西学院大学
西川 賢|津田塾大学
“Do Populists Support Populism? An Examination through an Online Survey after the 2017 Tokyo Metropolitan Assembly Election”(ペーパーのみ英語)

東村紀子|大阪大学・院
「難民危機を迎えたフランスにおけるポピュリスト―移民と難民をめぐる政策論争からの考察―」

[討 論]

ケン・ヒジノ|京都大学

第2日 6月24日(日) 10:00~12:00

共通論題|「アイデンティティと政党政治」

世界各地でナショナルなアイデンティティが問い直される一方、人種や宗教、性別をめぐる政治が顕在化している。アメリカでのトランプ現象は言うに及ばず、ヨーロッパの国々でも難民問題などを契機とする選挙での既存政党の敗北と極右政党の進出を経験している。アジア、たとえばインドでは、国民会議派による利益包括体制が崩壊し、ヒンズー至上主義政党が政権を担っている。
上記のような現象を「ポピュリズム」として捉えることも可能であるが、ここでは政治のスタイルというより、むしろ内容に着目する。アイデンティティの衝突と政党政治による仲裁の可能性を中心に考えていきたい。
具体的には、次のような問いを提起する。どのような要因がアイデンティティ政治の台頭をもたらしたのであろうか。アイデンティティ政治の台頭は、政党政治にどのような影響を及ぼしているのであろうか。世界の様々な地域におけるアイデンティティ政治と政党政治の関係は、どのように異なる(あるいは共通する)のであろうか。イデオロギーなど既存の政治的対立軸や、社会を分断する新たな争点とはどのように関係しているのであろうか。
今年度の共通論題では、本学会を創成期から牽引してきた研究者をお迎えし、これらの問いを考えていきたい。

[司 会]上神貴佳|岡山大学

[報 告]

久保文明|東京大学
「アメリカ合衆国におけるアイデンティティ問題と政党政治」

竹中千春|立教大学
「インド人民党システムの成立か?―ヒンドゥー・ナショナリズムと多数派主義―」

平島健司|東京大学
「ドイツにおけるアイデンティティをめぐる政治―ヨーロッパの文脈から―」

[討 論]

粕谷祐子|慶應義塾大学

日野愛郎|早稲田大学

第2日 6月24日(日) 12:15~13:45

リサーチデザインワークショップ(*本企画は中止になりました)

院生・ポスドク・若手教員などの応募者に現在進行中のプロジェクトのリサーチデザインを報告してもらい、複数の講師からフィードバックを得る機会を提供する企画である。

[司 会]

粕谷祐子|慶應義塾大学

[報 告]

応募者の中から数名|未定

[講 師]

尾野嘉邦|東北大学鹿毛利枝子|東京大学

第2日 6月24日(日) 14:00~16:00

分科会E|「経済低迷時の比較政治経済―選好・戦略・政策決定」

リーマンショック以降、多くの先進国はデフレスパイラルや政府破産リスク(risk of government bankruptcy)など、新たな政策課題に直面している。過去に成功した反循環的財政支出(counter-cyclical fiscal spending)やゼロ金利政策も、期待されていたよりも効果が薄い。革新的な手段として取り組まれている非伝統的金融政策、特にマイナス金利や量的金融緩和政策、はある一定の結果を残すも長期的景気回復には至っていない。また、長期的成長に必要とされている労働市場やコーポレート・ガバナンスの構造改革も、様々な利益団体の反対で実施することが困難である。
この分科会では、これらの経済課題を1)国民がどのように認識しているのか、2)どのように政府が政策を立案・実施しているのか、3)多国間のコーディネーションが改革を実施する上でどのような役割を果たしているのかを探る。似たようなテーマを異なる視点から分析・報告することによって、比較政治経済学研究の新しいアプローチを模索することができるだろう。

[司 会]

ケネス・盛・マッケルウェイン|東京大学

[報 告]

松本朋子|東京理科大学
加藤淳子|東京大学
「財政赤字はなぜ解消されないか? 有権者の政府財政認識をめぐるサーヴェイ実験」

竹中治堅|政策研究大学院大学
「コーポレート・ガバナンス改革と内閣官房主導の政策決定」

神江沙蘭|関西大学
“Germany’s Compromises? The European Central Bank’s Changing Roles in the Context of the Euro Crisis”(ペーパーのみ英語)

[討 論]

グレゴリー・ノーブル|東京大学

自由企画3|「ヨーロッパにおける『境界』の意味―隣国の原子力政策とどう向き合うのか」

2011年の福島第一原発事故は、日本のみならず世界各国に大きな衝撃を与えた。ドイツなどでは原子力発電からの撤退といった政策転換にまで発展し、原子力政策は大きな転換点に立っている。
近年、グローバル化や欧州統合の進展などといった形で国民国家の枠組みを超えた事態が進行し、既存の「境界」の意味が揺らいでいる。欧州統合の過程において、EUでは様々な分野で政策の共通化が進む一方で、原子力政策はこれまで、EURATOMを共通の基盤としながらも各国単位で進められてきた。EU域内の国境は、原発を推進する国家であれ、脱原発を進める国家であれ、各国が主権のもとにどのような原子力政策をとるのかを分かつ機能を果たしてきた。さらに、冷戦終結後の旧東欧諸国において社会主義時代の原発が問題視され、EUの東方拡大をめぐって、特に脱原発国のオーストリアと原発推進国のチェコやスロヴァキアとの間で激しい対立が生じた点は特筆すべきであろう。だが、ソ連製の原発については廃炉や「改良」などの措置が取られることになったものの、原子力政策そのものの是非については、依然として各国政府の判断に委ねられている。
その一方で、原発による事故に目を転じれば、1986年のチェルノブイリ原発事故や福島原発事故の際に国境や自治体間の境を越えて放射能汚染が拡大したことからも、人為的に設定された既存の「境界」が意味をなさないことは明らかである。また、放射性廃棄物の処理については解決の糸口すら見いだせず、国家や自治体の枠組みを越えた問題となっている。福島原発事故後も、日本における原子力政策に関する研究は西欧を中心に各国単位の政策や現状に関する事例研究が中心となってきたが、「国策」としての原子力行政の破綻は、国民国家の枠組みを暗黙の前提に行われてきた原子力政策研究にも根本的な問い直しを迫るものであるといえる。
こうしたことを前提としつつ、本企画は、ヨーロッパの中央部で国境を接する国々の原子力政策を比較することを通じて、一国の単位を超えてこの問題を論じるための視座を提示しようと試みるものである。

[司 会]

小野一|工学院大学

[報 告]

本田宏|北海学園大学
「ドイツとベルギーの脱原発政策をめぐって」

福田宏|成城大学
「原発推進国家としてのチェコとスロヴァキア」

東原正明|福岡大学
「脱原発国家オーストリアと周辺諸国」

[討 論]

大黒太郎|福島大学

小野一|工学院大学

自由企画4|「アジアにおける汚職と取締の政治性」

汚職研究は1990年代に大きく変化した。統治の問題とりわけ汚職が新たな争点として浮上した。1993年に汚職撲滅を掲げる国際NGO(TI)が設立され、1995年から毎年汚職認識指数(CPI)を発表するようになった。また、国連は1996年に汚職と贈収賄に反対する宣言を出し、OECDも1997年に贈賄防止条約を締結した。だが、これらの国際機関が主導する画一的な汚職撲滅対策は、十分な成果を実現できていない。汚職を取り巻く事情は国によって異なるという複雑な現実に、それらの対策が合致していないことが一因である。
本企画では、アジアから中国、インドネシア、マレーシアの3カ国を選び、汚職・汚職取締と政治の関係について考える。CPIを確認すると、2016年には176カ国中マレーシアが55位、中国が79位、インドネシアが90位であった。インドネシアは改善中であり、2016年にはフィリピンやタイを上回ってASEANで第3位となった。汚職取締徹底の成果といえよう。フリーダムハウスの指数では、インドネシアはASEANでもっとも民主的な国となっている。同国だけを眺めると、民主化と汚職取締は歩調を合わせて進むように思われる。しかし、汚職取締に熱心な中国で、政治の民主化が進んでいるわけではない。汚職・汚職取締がどのような政治的機能を果たしているのか、国ごとの違いが生まれる理由は何かを考えてみたい。

[司 会]

玉田芳史|京都大学

[報 告]

滝田豪|京都産業大学
「中国の反腐敗運動」

鈴木絢女|同志社大学
「制度化された汚職:マレーシアにおける与党の凝集性と政治の安定化に関する研究」

岡本正明|京都大学
「インドネシアにおける汚職撲滅の政治性と非政治性:汚職撲滅委員会(KPK)を事例として」

[討 論]

上田知亮|東洋大学

自由論題E|「社会運動の起原と帰結」

[司 会]

三上了|愛媛大学

[報 告]

鈴木隆洋|同志社大学・院
「南アフリカとイスラエルにおける和平プロセスに対する先住民族労働者による経済闘争の影響について:資本の要請と先住民族統合の関係から」

長辻貴之|西アフリカ研究所・早稲田大学・院
“The State’s Space-Time Strategies on Pre-Electoral Repression in Africa”(ペーパーのみ英語)

田中(坂部)有佳子|青山学院大学
「紛争後社会における指導者による暴力―東ティモール2006年騒擾を事例に―」

[討 論]

武内進一|東京外国語大学

窪田悠一|新潟県立大学

自由論題F|「政策過程の比較政治学」

[司 会]

申琪榮|お茶の水女子大学

[報 告]

縄倉晶雄|明治大学
「農協のロビー活動の影響力低下をめぐる要因分析―韓国農民団体との国際比較から―」

藤重博美|法政大学
「英国の脆弱国家に対する「安定化」政策―その史的展開と政策インプリケーション」

柏崎正憲|東京外国語大学
「日本の入国管理政策における排除の政治―裁量権と強制送還の日米比較をつうじて」

[討 論]

佐々田博教|北海道大学